『下鴨アンティーク 回転木馬とレモンパイ』

『下鴨アンティーク 回転木馬とレモンパイ』

著者/白川紺子
発行/株式会社集英社集英社オレンジ文庫
2015年6月30日 初版発行/¥570+税

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この先ありとあらゆる苦しみと悲しみが、この子の上を素通りしていきますように、と。

<あらすじ>

京都、下鴨――。高校生の鹿乃は、ぐうたらな兄と、近くの大学で准教授をしている下宿人の慧と三人暮らし。亡き祖母からアンティーク着物を譲り受け、同時に、蔵にある“いわくつき”の着物の管理も引き継いだ。鹿乃は、まわりの人びとに協力してもらいながら、着物の秘密と謎をひもといていく。長い時を重ねた物に宿る、持ち主たちの想いや願いとは――。四編収録。
(引用元:『下鴨アンティーク 回転木馬とレモンパイ』裏表紙)

<感想(ネタバレなし)>

 9月に紹介した本の2巻です。前回も書いていると思うのですが、うっかり2巻から読んでしまった作品。私の大好きな和物・京都・アンティークの三拍子が揃った連作短編集。(なので、即買いしました)祖母が遺した蔵の着物の不思議が物語の中心となる1冊です。ぶっちゃけ、多少登場人物の関係性がわからなかっただけだったので2巻からでも読めます。もちろんおすすめは、1巻からですが。
 前巻より1話分増えて収録されています。
 外国人女性と日本人男性の昔の恋のお話「ペルセフォネ秘密の花園」。
 隠れ鬼を続ける過去を生きたこどもの話「杜若少年の逃亡」。
 音楽を通して心を通わせた二人のお話「亡き乙女のためのパヴァーヌ」。
 二人の少女がお互い後悔を持って生きてきた「回転木馬とレモンパイ」。
 4篇で構成されている連続短編集です。今回は文学作品、能の他に、音楽も入ってきました。知っていると数倍楽しいけれど、知らなくても理解できるお話ばかりです。今回の私のお気に入りの話は、「亡き乙女のためのパヴァーヌ」でした。


 追記では、1篇ずつネタバレありの感想です。

<総括>

 今回も私は知らないものがモチーフになっていることが多かったのですが、理解しつつ、読むことができました。後あまりに知らなさすぎるので、たまにわかるものが出るとテンション上がりますね。
 相変わらず慧ちゃんがイケメンで、身近にこういう人ほしいと思いました。恋活なんてものも少しだけしたんですけど、マッチングがうまくいかないんですよね。イケメンとは言わないし、お金持ちがいいわけでもないのに、なぜあんなに年上の人ばかりアプローチしてくるのか。流石に母と大して変わらない年齢は無理だと思います。
 ……と、話がずれましたが。今回は前作ほどこれが一番!ってお話はないのですが、考えさせられるという意味では「亡き乙女のためのパヴァーヌ」がおすすめです。

<お話しごとの感想>

ペルセフォネ秘密の花園

 今回は洋装の鹿乃ちゃんからスタートでした。その服のセンスも本当にうらやましい。ちょっと真似してみたいけど、高校卒業して数年たってるので、難しそうです。いや、ギリギリ行けるかな……。
 この作品では『佐保姫』や「ペルセフォネ」というギリシャ神話が出てくるのですが、横文字苦手な私でも繋がりがわかる感じでした。(単純にギリシャ神話や日本神話が好きだからかもしれません。北欧神話にそのうち手を出したいです)。その他に『秘密の花園』が出てくるのですが、こちらは全然知らなくて。それでも作中にあらすじがあるので理解できるようになっています。
 着物が元に戻るシーンはとても幻想的でした!
 私は虫全般苦手なのですが(蝶もダメです。だって羽以外やっぱり虫だもの)、これは想像しても、綺麗だなと素直に思える演出でした。

『杜若少年の逃亡』

 上に兄弟がいるっていいなぁと思いました。私自身は下に弟がいるのですが、幼馴染たち(団地なのでいっぱいです)は、下の兄弟が喧嘩してくると、相手に一言二言きっちり話しつけるんですよね。妹を持つ一つ上のお兄ちゃんたちもそんな感じで、私も私で弟の敵討ちをしていたので、冒頭で懐かしく感じました。昔は弟も鹿乃みたいに泣いていたのになぁ。今やひねくれ坊主です。
 単語のヒントで能の演目やら文学作品やらの話まで思い出せるのはすごすぎると思うのです。ぜんっぜん分からないっていうほうが国文学をやっていた人間としてはだいぶ問題なのですが。
「幸福な抜け殻」という表現に脱帽しました。抜け殻ってなんだか、物寂しいイメージだったのですが、前述したように表現すると、また違う受け止め方ができるものですね。

『亡き乙女のためのパヴァーヌ

 音楽をやっていた方にはなじみのある曲ではないでしょうか。『亡き王女のためのパヴァーヌ』をもじったタイトルです。私は音楽一切やっていないのですが、周りがピアノを習っている子や数年前に『四月は君の嘘』にはまって作中でも取り扱っていた曲なので、知っている曲でした。他にも、『ミルテの花』や『君は花のごとく』が取り扱われますが、こちらは知らなかったので、今後調べようと。
 この話は、鹿乃の友人・奈緒ちゃんにスポットライトがあてられています。ちょっと強気で気難しいところもあるけれど、時折見せる可愛らしさにギャップもえとはこのことか、と。
 また、戦時中のお話もあり、恥ずかしながら、京都にも空襲があったことを初めて知りました。でも、よく考えたらそうですよね。文化財があろうがなかろうが知ったこっちゃないですよね、戦の最中、しかも敵国なら。
 この戦時中の描写は、五行にも満たないくらいですが、生々しい表現があります。言ってしまえば、グロいの一言で終わるのかもしれません。それでもやはり戦争を知らない時代を生きる私たちには、こうして物語の中でも戦時中の様子を知ること、どんなものだったのかを想像することが大切だと感じました。痛みを知らない人間は人を簡単に傷つけますからね。
 今回の事件は鹿乃奈緒で解決してしまうのですが、最後の慧の言葉です。素敵すぎ。人生で一度でいいからこういうことを思ってくれる人に出会いたいものですね。残念ながら、今年も独り身のまま終わりそうですが! それどころかイブも、クリスマスも大晦日も仕事なんですけどね!!

回転木馬とレモンパイ』

 お互いがお互いの幸せを祈りつつ、後ろめたさも抱えているそんなお話でした。今回は、良鷹と真帆ちゃんメインのお話でしたね。女の子の似合う色まで把握している良鷹兄さん本当にすごい人だと思います。見る目があるから古美術商もできるんでしょうね。