『下鴨アンティーク アリスと紫式部』

『下鴨アンティーク アリスと紫式部

著者/白川紺子
発行/株式会社集英社集英社オレンジ文庫
2015年1月25日 初版発行/¥550+税

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「おなじもん見とって、別々のとらえ方するんやったら――そっちのほうが、得やない? ひとつのものに、ふたつ、見方ができるんやもん」


<あらすじ>

京都、下鴨――。高校生の鹿乃は、旧華族である野々宮家の娘だ。両親を早くに亡くし、兄の良鷹と、准教授をしている下宿人の慧と三人で、古びた洋館に住んでいる。アンティーク着物を愛する鹿乃は、休日はたいてい、祖母のおさがりの着物で過ごす。そんなある日、「開けてはいけない」と言われていた蔵を開けてしまう! すると、次々に不思議なことが起こって……?
(引用元:『下鴨アンティーク アリスと紫式部』裏表紙)

<感想(ネタバレなし)>

 うっかり2巻から読んでしまった作品。私の大好きな和物・京都・アンティークの三拍子が揃った連作短編集。(なので、即買いしました)祖母が遺した蔵の着物の不思議が物語の中心となる1冊です。
 着物の元持ち主やその関係者の話を聞き、『あべこべ』をヒントに着物を元に戻す「アリスと紫式部」。
 泣いている女性の気持ちを考える「牡丹と薔薇ソネット」。
 祖母の遺言に従い、蔵の着物を継承するために、日記をヒントに亡き祖母の着物を探す「星月夜」。
 3篇で構成されている連続短編集です。お気づきの方もいらっしゃると思いますが、最初の2篇は『不思議の国のアリス』や『源氏物語』、シェイクスピアの『ソネット集』が関わっています。

 古典作品との関連性もみどころではありますが、私が注目していただきたいのは、ヒロイン・鹿乃のアンティーク着物の着こなし術!
 祖母のおさがりのアンティーク着物を休日に着る彼女は、テーマを決めてその日のコーディネートをしていきます。
 赤い紬に油彩調で森を描いた染帯を合わせて『赤ずきん』、浅葱の縞御召に蛙柄の帯で『梅雨』。モダンなものも多いアンティーク着物でこうして遊べる女子高生なんて、なかなかいないですよね。
 紹介したもののほかにも、鹿乃は様々なテーマでコーディネートをしているので、ぜひそちらもお楽しみに。


 追記では、1篇ずつネタバレありの感想です。

<総括>

 実は『源氏物語』『鏡の国のアリス』『建礼門院右京太夫集』等々、文学作品は未読な物が多かった私でも楽しめました。(『あさきゆめみし』は高校時代に途中まで読みました。)ところどころに入る慧の解説がわかりやすくて。難しいからいやだなぁと思っていた古典作品ですが(授業ではやっていたくせに)、慧のおかげで、だんだん読んでみたくなりました。
 着物好きでおばあちゃんっ子のヒロイン・鹿乃の京言葉は、当時住んでいたのが同じ関西圏だったことと、昔少しだけ京都に住んでいたこともあり、慣れ親しんだ言葉のようにすんなり受け入れられました。そして、彼女の格好! 私自身はあまりファッションに興味がなく、とりあえず好きな服や母が買ってきた服で適当に済ませていたのですが、鹿乃みたいにテーマを決めて服装を決めるのは面白そう。今後、取り入れていきたいです。
 彼女と共通点を探したら、おばあちゃんっ子ということくらいでした。着物も好きなんですけど、さすがに着付けまではできないんです。私の祖母も亡くなっているので、鹿乃のおばあちゃんが遺してくれたものへの愛着は、ものすごく理解できました。

 良鷹と慧はどちらかというと、慧が好みなんですよねぇ。というか、年上男子、しかも本好き。最高ですね。私の好みドストライク。でも、悲しいことに言動を見ていると、ちょこちょこ私に似ているところもあって、読んでいると、鹿乃の気持ちに感情移入ではなく、鹿乃の一挙手一投足にハラハラさせられる慧の気持ちのほうがわかるという……。少女小説を読んでいる人間としては少しおかしいような読み方をしてしまいました( ´艸`)

 3篇の中では一番「星月夜」が好きです。
 やわらかい雰囲気なので、できれば夜読むことをお勧めしたいです。寝る前とか、ふんわりした雰囲気に癒されるのではないでしょうか。

<お話しごとの感想>

『アリスと紫式部

 開始早々の鹿乃のコーディネート。少ないヒントだったのですが、トランプというところまではあてられました。
 この作品に関しては、紫式部が苦手な私にとって、一番受け入れやすい六条御息所のエピソードにしてくださったことが有り難かったです。(紫式部が苦手なのは単純に大学の先生が紫式部上げの、他作品貶しをしていたためで、完全に作品は関係ないです)。でもまさか、あんな昼ドラみたいにどろっどろしている『源氏物語』と子供も読めるファンタジー『不思議の国のアリス』が融合するなんて。思いもしませんでした。
 牛車でのやり取り。『源氏物語』をあまり知らない私でも知っているようなエピソードです。私が六条御息所が好きな理由が、自分に似ているところがあるという点と、もう一つ、思いの強さなんですが、やっぱり激しいですね……。
 光源氏に対して「誰のせいでこうなってると思とんねん」という鹿乃の言葉に思わずうなずいてしまうのは、私が現代に生きているからなのかなと思ったり。昔は当たり前のように受け入れられていたのかなぁと思うと、現代に生まれてこれたことに感謝です。『あさきゆめみし』を読んでいた時も思ったのですが、光源氏絡みで女性陣が大変な目にあっていると、「ほんまに誰のせいやと思うとるんや、こいつ!!」ってなるのは、おかしくないんだなぁとも感じました(笑)
 敏子さんが苦手という良鷹の気持ちがわかるくらいには、私もなかなか好感をもてませんでした。二回目に読んだ現在は、社会人になっているのですが、それでもやっぱり同情できる点はあっても、彼女は苦手です。少女のころは潔癖で後妻さんを許せないみたいなお年頃であっても仕方ない。けれど、おばあさんになった今でさえ、そう考えたままというのが苦手なポイントなんだろうなと思いました。プライドが高すぎるのもよくはないことですよね。私もどちらかというと、プライドが高い(ように見えるそうです。)らしいので、いろんな見方ができるようになりたいなと思います。
「ひとつのものに、ふたつ、見方ができるんやもん」という鹿乃の言葉通り、いろんな見方をして、いろんな考えを受け入れるようになれたらいいな。
 鹿乃と慧の出会いのエピソードは、子供の残酷さと、鋭さが出ていて、甘苦いストーリーでした。

牡丹と薔薇ソネット

ソネット集』という物があることを初めて知りました。シェイクスピア作品は『ロミオとジュリエット』を読んだくらいなので、いつか読んでみたい作品です。というのも、このお話では、『ソネット集』を使った暗号が出てくるもので。あんな秘密の暗号みたいな恋文をもらってみたいな、なんて。
『熊野』と『石橋』。脳も見たことのない私からしたらとっつきにくいように最初は感じましたが、さすが大学の准教授。慧の説明はわかりやすくていいですね。興味を持たせるようなそんな解説でした。
 牡丹と薔薇、どちらも華やかで堂々とした花だと思います。
 色彩豊かな花に負けないほど、鮮やかで忘れられない、しかし散ってしまった恋。花を惜しんで、押し花にするような感覚だったのでしょうか。残された品が、切なく感じさせられました。
 けじめという形をつけつつ、密やかに残された思い出は、二人の想いが褪せてしまっても、色鮮やかなまま記憶に残っていると示しているようで、富貴子さんは粋な隠し事をしたんだな、と。
 春野さんはちょっと苦手です。初対面で薔薇を渡せる大学生って怖い!

『星月夜』

 鹿乃の祖母・芙二子(おふじさん)の17歳のころの日記。お祖父ちゃんとのなれそめ、新婚エピソードを書いているなんてかわいらしくて。私の祖母は、3色+おやつに何を食べたかと予定をノートに綴っていたなと思い出しました。叔父の家に今もあるはずなのですが、亡くなって遺品整理をしているときに見た時、祖母の字とわかるとともに、読みづらさを覚えたのを思い出しました。
 鹿乃もやはり読みづらかったようですが(崩し字だったようです)、それでも祖母の恋に一喜一憂するところがかわいらしくて。
 勝気なおふじさんに対して、鹿乃の祖父の健次郎さんは、返しが上手で。ツンデレを落とすには、こういう性格と抱氏ができないといけないんだなと思ってしまいました(笑)
 深い夜空を見て、《藍甕の中を覗き込んだやうな深い藍色の空は、重く暗い私の心そのものに見えた》と記しているおふじさんの感性が好きです。そして、健次郎さんと仲直りをして、心が通じ合った後の夜空を見た感想が素敵でした。特にお気に入りは、こちらの一文。
 星が、葉に置く露のように震えながら、さやかな光を放っている。心境の変化をこんな風に情景描写できる白川先生に弟子入りしたいくらいです。
 そして、健次郎さんの「そんなん、僕はとうに落ちとるよ」とかもうなんて殺し文句。
 私にもいつかこんな恋をする日が来るのかなぁと夢見て、とりあえず出会い探しからしないといけないことに気付きました。


 現在、シリーズ4巻まで出ていますので、そちらもおいおい感想をアップしますね!